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2007年 3月15日

“使いやすいショップ”の現在形 - 【バイオリン楽譜.ネット】宮内雅史様

クラシック音楽にのめり込んで

【バイオリン楽譜.ネット】宮内雅史様

 今回ご紹介するのは、バイオリンを始めとして、ヴィオラ・チェロ・ベースなど、クラシック音楽の楽譜販売を行なう【バイオリン楽譜.ネット】のWebマスター宮内雅史様だ。大手楽器店の店頭でも品揃えが少ない、ややマイナーな楽器の楽譜を中心とした品揃えで、まだオープンから間もないながらも、クラシック愛好家から好評を博しているサイトである。情報提供手段として有効とされてきたメールマガジンの配信を行わずRSSのみとするなど、数々の目新しい手法を取り入れているのも注目に値する。

 同氏のクラッシック音楽との出会いは、幼少時代に習い始めたピアノだった。中学生時代にはブラスバンド部に入部し、トランペットを担当。その後、高校・大学時代とクラッシック音楽への熱は冷めず、様々な楽器を演奏し、最終的にチェロの担当となった。国立大学の理学部に籍を置いていたにも関わらず、あまりに演奏活動に傾倒してしまったため、留年まで経験してしまったそうだ。

 その頃、客として出入りしていた大手の弦楽器専門店で、そこの社員の方と知り合い、大学卒業後には“バイオリン修理者”という、一風変わった職業に就くこととなる。後に支店の責任者を任されるようになり、楽器の修理・修復だけではなく、楽器や楽譜の販売業務も担当することとなった。超一流の楽器製作者やディーラーなどとの出会いもあり、忙しいながらも毎日充実した生活を送っていたという。

バイオリン楽譜.ネット

 そんな同氏が独立を考え始めたのには理由がある。「楽器の修理を行っていたのでは需要が限られていますので、住む場所が限定されてきてしまいます。もっと広い地域の方々を対象としたビジネスをしてみたいと考えたのです。」 2005年11月、思い切って勤め先を退社。地元の富山県魚津市に戻ってビジネスのアイディアを練っていた際に思い浮かんだのが、インターネットを使った楽譜専門店というコンセプトだった。

 日本中を探せば、楽器専門店は何件も存在しており、楽譜の品揃えが充実した店も少なくない。しかし、「私自身、お客として専門店から楽譜を購入し、商品を送ってもらうことが多かったのですが、電話をかけて、在庫を調べてもらって、あった場合には値段を聞いて、それから住所を伝えてと、とても手順が面倒でした。お店にとっても、電話での問い合わせや注文というのは煩雑で、面倒なお客だったのかもしれません。」 このような不満を感じることも多かった。

 また同氏は、ピアノやエレクトーンなどの演奏者が多い楽器ではなく、チェロやヴィオラなど、どちらかと言えばマイナーな楽器の楽譜を探すことが多かった。このような商品となると、在庫が豊富な実店舗で探したとしても、決して満足できる品揃えがある訳ではないのだそうだ。「普通の本屋の場合、『小説を買いに来られたお客様がついでに他のジャンルの本を見て回られる』ということもあると思います。しかし楽譜の場合、自分の弾かない楽器の楽譜というのは、あまり関係のない物になってしまいます。バイオリンを演奏されている方にとって、商品棚に合唱の楽譜が揃っていてもそれほど嬉しいものとは思えないのです。」

 2006年2月からWebショップ開業のための準備に取り掛かったのだが、その方面に関しては全く知識が無く、完全な初心者だったという。「最初はネットショップ作成ソフトを使っての立ち上げを考えておりましたが、思ったような質の物が作れず、1から作り直しました。そのときに『aタグはリンクで』という、HTMLの本当の初歩から勉強しました。」 作業が行き詰まりかけていた時、以前にここでご紹介したことのある、同じ富山県内の手ぬぐい専門店【ほっと屋】のWebマスター滝氏との出会いがあり、そこで貴重なアドバイスなどをもらうことが出来たのだそうだ。

 サイト制作や商品仕入れ先との連絡、事務所の工事などを集中して行い、同店がオープンに漕ぎ着けたのは、準備開始からわずか3ヵ月後の2006年5月のことだった。しかし、全てが初めて体験することばかりであり、「サイト内の説明に不備があったり、送料を計算する設定を間違えていたりと、いつが本当のオープン日なのか曖昧です。その頃はまだHTMLと格闘する時間が長く、商品の写真を撮って入力する時間も少なかったため、商品数も100点ほどしか掲載できていませんでした。」 ほとんどの作業を自分一人の手で行っていたため、予定通りに進まないジレンマを感じていたそうだ。

クラシックブームも追い風に

 何とか無事にオープンを迎えた同店は、事前の予想どおり、順調に利用者数を伸ばしていく。ちょうどその頃は、クラシック音楽がニュースに取り上げられる機会も多い時期であり、クラッシック音楽をテーマとした人気コミック『のだめカンタービレ』がテレビドラマ化されて、好評を博していたこともあった。「『クラシックベスト100』といったようなCDが売れたりと、静かなクラッシックブームがあったところに、『のだめカンタービレ』が話題となって爆発が起きたような感じです。」 同店にとっては追い風が吹いていたと言えるかもしれない。

 クラシック音楽は、比較的、このような流行り廃りが少ないカテゴリになるのだが、それでも、「荒川静香さんがフィギュアスケートのBGMに使われた、トゥーランドットの『誰も寝てはならぬ』のように、テレビで有名になった曲が、突然、多く買い求められるということはあります。」 というような波がやってくることもある。しかし、「基本的には、昔からある曲を演奏することになります。一度入ってしまえば、100年や200年聞き続けられても飽きられることなく残ってきた名曲ばかりの世界ですので、クラシック人口は減ることはないと思います。」 非常に安定した市場だと言える。

 少子化が社会的な問題となっている昨今、街の音楽教室などでは子どもの会員が増えないという悩みを抱えるところも多いようだ。しかし、その一方で、「趣味でピアノやバイオリンを習われる大人の方は、確実に増えております。また定年後の趣味として、これから楽器演奏を楽しまれる方もいらっしゃるでしょう。当サイトにも、これから始められる方や、始めたばかりの方からのご質問が多く寄せられております。」 愛好者数が急増することも考えにくいのだが、その数が減ることもない、非常に安定した市場が形成されているようだ。

地方で営業するデメリットは皆無

 現在、同店が扱っている商品は「1,300点」ほどになり、それらは全てアメリカやヨーロッパからの輸入品なのだそうだ。それまでは輸入業務に携わるような経験も無かったため、仕入れ先にメールで書類の書き方を尋ねたり、相当に苦労なさったという。「間違った商品が届いたり、商品点数が違ったり、傷んでいて売れない状態だったりと、トラブルも多少あります。最初に驚いたのは、イギリスに手紙を出して、宛先不明で戻ってきたときです。追加料金なしでしたが、それにより取引開始がだいぶ遅くなってしまいました。」 輸入業務の経験が無いまま輸入品販売業を開業してしまったのだから、随分と思い切った決断だったと言わざるを得ない。

 同店は富山県で営業しているのだが、こうした輸入品の販売を行っている限り、不便を感じたりすることも無いという。「商品を発送する場合も、東京や大阪と運賃に差がありませんし、仕事で必要な物も全て近所のお店や通販で購入できるので、不便も不利も感じません。仕入れしたときに、空港からの運送料が少しだけ高いのですが、普段の家賃がとても安いので、問題にならないと思います。」 何も東京に執着する必要はなく、地元へ戻っても十分に営業は成り立っているのだ。「東京-ニューヨーク間の距離も、富山-ニューヨーク間の距離もそれほど変わりませんから。」

 同店では、「午後4時までの入金であれば即日発送」というシステムを取り入れ、その速さがユーザーから好評を得ている。「ご注文から発送までは、できる限りのシステム化に励んでおりますので、発送作業は1人でも1時間かからず完了できるようになっております。今の5倍の注文が入るようになっても、2人で1時間あれば梱包できますので、運送会社が荷物を取りに来る6時頃までには問題なく間に合います。」 こうしたシステムによって、地方で営業するというデメリットは一切感じられなくなっているのだ。

 唯一、問題があるとすれば、「地方で一番困るのは、『クラシックの演奏会の回数が少ない』ということですが、それは仕事というよりも趣味の世界に入りそうです。」と、その1点のみだそうだ。このような環境を羨ましく感じる方も多いのではないだろうか。

目新しいアイディアが詰まったシステム

楽譜の画像

 Webショップを運営していく上で、同店が最もこだわっているのは「検索のしやすさ」だそうだ。基本的なシステムはサーバ付属のショッピングカートを使用しているが、「ジャンルから商品をたどる場合や、作曲者からたどる場合など導線を多く作りたかったので、その部分を一人で作っております。」 自らデータベースを組んで、自作のPHPで稼動させているのだという。

 このような技術は、一体いつの間に身につけたものなのだろうか。「HTMLとCSSをとりあえず使えるようになった後、全て独学で覚えました。勉強の仕方は、分かりやすそうな本をAmazonで片っ端から購入して、それらとGoogle検索を使ってトライアンドエラーです。」 つい1年ほど前までは HTMLの知識も無かった同氏のことであり、これは驚くべき急成長ぶりだと言えるだろう。「初めて書いたソースは、今もうちのサイトで活躍しています。最初から本番でした。まさに現場たたき上げです。」

 しかし、同店が扱う商品では、海外の人名や曲名など、いわゆる“表記のゆれ”が大きい部分もあり、この問題には今でも頭を悩まされているそうだ。「作曲者名・曲名は、できるだけ広く使われている表記を使っておりますが、それだけではやはり対応しきれません。自作の検索窓への記入は、よくあるゆれを吸収するように作っていますが、できるだけ幅広く対応できるようにするのが、今後の課題になります。」 常にシステム改良を続けていくことが必要となるのだ。

 その部分以外でも、同サイトにはすでに多くの優れたアイディアが取り入れられている。例えば、商品画像をクリックすると楽譜の冒頭部分を見ることが出来るようになっており、ユーザーが所有しているCDと同じ曲なのかどうかを確かめられるのだ。自らの体験を活かした、ユーザーに優しいサービスであると言えるだろう。それ以外にも、ユーザーから商品レビューを投稿してもらう機能も装備されており、全体的にシステムの完成度は高い。

 また、購入者限定でオリジナルの壁紙をダウンロードできるパスワードを配布しているというのも、設立間もないサイトとしては凝った仕組みであるといえる。購入者に限定しないフリーの壁紙では、月間で1,000回を超えるダウンロードを記録したものもあるそうだ。「デザインによって、ダウンロード数100を超えている物から、まだ一桁の物までありますので、この傾向を読んでサイトのデザイン作りに活かしたいと考えています。」 サイトのアクセスアップを狙うだけではなく、サイト作りの参考に活かしていくようだ。

敢えてRSS一本に絞って

壁紙ダウンロードサービスも好評

 ショップの告知に関しては、今どきの新設サイトらしく、商品情報の発信は敢えてメールマガジンで行わず、RSS のみで行っているそうだ。その意図を伺うと、「ネットショップとお客様との交流というと、やはりメルマガが主流ですが、クラシック音楽という古い業界ですので、あえて新しい形を提案したいとRSS一本でいっております。」 非常に思い切った戦略のようにも思えるが、作業の煩雑さなどを考えると、“店主のブログで親近感を持たせ、商品情報はRSSで提供する”、このようなスタイルも広まっていくのかもしれない。

 以前は有料の告知なども行っていたが、それに見合った効果が感じられなかったため、現在では行っていないという。しかし、すでに「バイオリン 楽譜」といった検索ワードで最上位に表示されるなど、SEOは非常に上手くいっていると言える。普段から意識しているのは、「『商品名と解説を面倒でも丁寧に書く』『Pingをできるだけたくさん飛ばす』『サイト内リンクを増やす』。結局、お客様が検索しやすいようにサイト構築をしていく、その延長線上にSEO があると思います。」 短期間でSEOに成功した実例として、見習うべき手法だといえるだろう。

 今後のご予定を伺うと、「在庫数を2,000点ぐらいまで増やした後は、自社で楽譜を出版したいと考えております。ベートーヴェンやシューベルトの楽譜に、現代の奏法に通じた演奏家の書き込みを加えた物など、自分があったら良いなという楽譜の企画がいくつかあります。」 このような企画商品は、現在のサイトはもちろん、新しく英語サイトも立ち上げて、海外への販売も計画しているそうだ。地方から世界に向けて、今後ますます期待できるサイトだといえるだろう。

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